2022年度部落問題研究所臨時総会が、2023年4月16日(日)に開催された。 第1号議案「2023年度事業報告」は梅田修理事が提案した。第2号議案「2023年度資金調達及び設備投資の見込みについて」及び第3号議案「2023年度収支予算」は梅本哲世理事長が提案した。その後審議し、議案ごとに可決しました。

2023年度研究活動の基本方針

公益社団法人部落問題研究所(以下、研究所)は、「定款」第3条の規定するところに従い、日本社会の民主主義的発展に寄与することを目的として、解決段階にある部落問題をはじめ、日本社会の人権と民主主義、人間発達に関する諸問題を調査・研究し、成果を社会に普及する事業を行なう必要がある。そのため、内外情勢と人権及び民主主義に関する諸動向を念頭におき、部落問題解決過程の到達段階と研究の到達点をふまえつつ、研究活動の基本方針を定める必要がある。

 一 内外情勢と人権及び民主主義に関する諸動向

日本国憲法は、アジア太平洋戦争の惨禍を経て、「戦争は最大の人権侵害である」という反省に基づいて、徹底した恒久平和主義を基本原理としている。ところが、岸田内閣は、ウクライナ戦争や米中対立が強まるなかで、2022年12月に「安保3文書」を閣議決定し、歴代の自民党内閣がとってきた「専守防衛」を基本とする安保政策から、「敵基地攻撃能力」を保有し、集団的自衛権行使による米軍との共同作戦を実施する安保政策へ大転換した。軍事費の大幅増額、明文改憲政策が進められ、排外的ナショナリズムが煽られ、日本は「戦争か平和か」の岐路に立たされている。
岸田政権は、菅政権による日本学術会議会員の任命拒否を撤回せず、日本学術会議の独立性・自律性を否定し、政府の政策審議機関に変質させようとする法改正を狙っている。また、政府が進める国際卓越研究大学などの「産官学連携」政策は、大学を大きく変質させるものであり、学問の自由と大学・学術機関の公共性を守るたたかいが求められている。
日本経済の長期的停滞が続き、新自由主義政策による格差・貧困の拡大に加え、コロナ禍、物価高騰、実質賃金の低下などによって国民生活が悪化し、低所得層や社会的弱者にますます矛盾がしわ寄せされている。コロナ・パンデミック以降、日本社会の人権と民主主義をめぐる諸問題がますます可視化され、ジェンダー平等を求める運動など、さまざまな市民や団体の運動が起こり、広がっている。その一方で、政治革新をめざす流れと市民的立ち上がりを分断、分裂させる動きもまたはげしくなっている。
以上のような内外情勢と人権及び民主主義をめぐる動向を念頭に置いて、研究所の研究課題と社会的役割を明確にしなければならない。

 二 部落問題の解決過程と現状・課題について

日本社会の民主的発展にとって重要な歴史的課題である部落問題は、基本的に解決段階に到達している。日本社会においては、現在、地域的格差などの実態的差別はほとんど解消し、広範な地域住民の努力により、部落差別は許されないとする基本的な社会的合意が成立していると考えられる。しかし、社会問題としての部落問題が基本的に解決段階に到達したことが、日本社会で十分認識される状況になっているわけではない。
そのなかで、部落問題の最終的解決への前進を阻害する動きが強まっている。「部落差別の解消の推進に関する法律」(「部落差別解消推進法」)制定後、自治体の「人権意識調査」、「部落差別解消」条例の策定、法務省の依命通知「インターネット上の同和地区に関する識別情報の摘示事案の立件及び処理について」など、公権力による解決に逆行する動きが強まっている。また、マスコミが、解決過程の到達点や広範な市民の努力に目を向けず、「差別が根強く存在する」という報道をくり返していることも問題である。
そのような状況のなかで、和歌山県立図書館の部落問題関係図書の閲覧制限問題が明らかになり、多数の幅ひろい研究者や本研究所などの要望で、同図書館の制限措置が解除された。こうした活動は、公権力による部落問題を利用した言論・表現の自由、学問の自由を規制する動きが強まるなかで重要であり、今後も関係諸団体のなかで研究所に求められる独自の役割を十分果たす必要がある。
以上のような状況のもとで、部落問題の解決段階に至った歴史的経験を人権と民主主義にかかわる国民的努力の成果として総括し、これを日本社会の市民社会としての成熟のために生かすことが課題である。その際、解決過程の到達点を無視した事態や研究動向にも十分留意し、人権と民主主義にかかわる内外の諸問題も念頭において、研究・普及活動を発展させることが重要である。

 三 部落問題研究所の当面する課題

研究所は、「部落差別解消推進法」後の解決過程の到達点を無視した事態や動向に留意しつつ、今日的に要請されている社会的責任を果たすために、研究所の財政危機克服の課題と関連させつつ、研究課題と事業計画を具体化し、諸活動を進める必要がある。
第一に、研究所は、これまで部落問題をはじめとする人権、地域、これを包含する社会の諸問題について、理論的実証的研究を行ない、成果の普及に努めてきた。日本社会の民主主義的発展に寄与するため、いっそう学際的研究を重視しつつ、引き続きそれらの諸課題の研究と成果の普及に取り組む必要がある。
第二に、部落問題の解決過程の到達点に立って、その歴史的経験を国民的に共有するため、研究の到達点をふまえつつ研究を深化・発展させ、普及活動をいっそう工夫する必要がある。そのためにも、民族問題、女性問題などと異なる部落問題固有の性格とその解決のあり方をいっそう理論的、具体的に明らかにする必要があり、そのためにも学際的交流を発展させる必要がある。 
第三に、それらの活動と並行して、国民的文化遺産ともいえる研究所所蔵の図書・資料の保存・活用のため、蔵書目録を作成・公開するなど一層の整備を図る。また、ZOOM利用のオンライン研究会開催などの体制を強化するため、その条件整備に取り組む必要がある。