開催日 2023年2月19日
報告者 川辺 勉
所 属 帝塚山学院大学

 2022年度第4回教育研究会が、2023年1月19日に開催された。報告は、川辺勉「部落問題の解決過程における諸問題」である。
 川辺氏の報告の柱は、次の2点である。第1は、肥大化した人権教育・啓発事業、インターネット上の「地名情報」問題、「部落差別解消推進法」(2016年)の制定、地方自治体における「人権条例」の制定など、部落問題の解決段階に逆行する動きが強まっており、部落問題解決の到達段階の認識の広がりを妨げている。第2に、教育基本法の改正(2006年)、道徳の教科化(2018年開始)、憲法改正の動向などを背景にしながら、「同和問題についての差別意識の解消」を利用した人権教育・啓発事業による公権力の市民支配が構造化し始めているのではないか。
川辺氏は、地域改善対策協議会「意見具申」(1996年)が、「実態的差別」の解消は認めつつも、残された課題は「差別意識の解消」だとして、人権教育・啓発を施策の中心においたことが一つの転換点になったと指摘。これをふまえた「人権教育のための国連10年」国内行動計画の策定を契機に、市民の意識を対象にした政府(国)の政策策定と国・地方自治体を実施主体とする人権教育・啓発事業(日本型人権教育・啓発)へと道が開かれたこと、市民は人権教育・啓発の主体ではなく対象として扱われることになったと指摘。そして、いくつかの地域の事例を紹介しつつ、「差別意識」の問題も含めて、部落問題解決の出口は「民主的なまちづくり」にあることを強調した。
 川辺氏の報告内容は、「部落問題の解決過程における諸問題」(『部落問題研究』第244輯、2023年2月)に詳述されている。(梅田修)