4月24日、臨時総会を部落問題研究所で開きました。
総会は、梅本理事長の開会挨拶(別稿)の後、議長に小村和義氏(京都)を選出、第1号議案 2022年度事業計画、第2号議案 資金調達及び設備投資の見込み、第3号議案 2022年度収支予算について、審議、可決しました。

2022年度研究活動の基本方針

公益社団法人部落問題研究所(以下、研究所)は、「定款」第3条の規定するところに従い、日本社会の民主主義的発展に寄与することをめざし、解決段階にある部落問題を含め、日本社会が当面している人権と民主主義、人間発達に関する諸問題について調査、研究を進め、その成果を社会に普及する事業活動を展開することが求められている。そのため、内外の動向を念頭におき、人権と民主主義をめぐる日本社会の状況と運動を考慮し、部落問題解決過程の到達点を踏まえ、当面の研究活動の基本方針を定めるとともに、研究所として中長期的な研究課題を明確化する必要がある。

 一 内外情勢の特徴と課題

新型コロナウィルス・パンデミックが世界を覆って2年余りが経過し、2022年4月12日現在で累計死者数は世界で618万人、日本で2万8774人となったが、感染はなお終息していない。コロナ・パンデミックは、人類的規模で人々の生存・生活と地域・社会を脅かし、日本社会が抱えるさまざまな矛盾をいっそう激化させ、人権と民主主義をめぐる深刻な諸問題を可視化させた。
「米中新冷戦」といわれる覇権争いが日本も巻き込んで展開するなかで、2022年2月、戦後の国際法秩序を揺るがすロシアのウクライナ侵略が起こった。プーチン大統領は核使用でウクライナと世界を威嚇し、非人道的無差別攻撃をおこなっている。これに対して、国連総会は141カ国の賛成でロシア非難決議を採択し、世界各地で市民がウクライナ支援のため立ちあがっている。日本では、危機に乗じて岸田文雄政権が「敵基地攻撃能力の保有検討」を提起し、日本維新の会や自民党が「核共有」を提起するなど危険な動きが強まっている。戦争被爆国日本にふさわしいウクライナ支援とともに憲法9条擁護、核兵器禁止条約加盟の世論を高める必要がある。
岸田政権は「新しい資本主義」を掲げつつ、安部晋三・菅義偉政権の基本政策を継承し、コロナ危機で破綻が明白となった新自由主義政策の新展開をめざすとともに菅政権による日本学術会議会員の任命拒否を撤回せず、「国際卓越研究大学」などの「大学改革」を進めている。大学・学術機関の公共性と学問の自由を守ることがいっそう重要になっている。
日本社会は、経済の停滞と格差拡大が続き、コロナ危機と政治的人災のもとでエッセンシャルワーカー、非正規労働者、外国人労働者、女性労働者、個人営業者、学生、子どもなどの社会的弱者に矛盾がしわ寄せされてきた。そのなかで、さまざまな市民の運動が起こっている。とりわけ、コロナ危機のなかで、ジェンダー差別が日本社会の構造的問題として認識され、ジェンダー平等を求める動きが歴史上かつてない広がりをみせている。しかし、内外情勢の激動の下で、政治革新をめざす流れと市民的立ち上がりを分断、分裂させる動きもまたはげしくなっていることに注目しなければならない。
以上のような内外情勢の動向を念頭に置いて、これまでの研究所の研究と役割を今日の状勢の下で発展させる観点に立って、研究所の研究課題と社会的役割を明確にしなければならない。

 二 部落問題の解決過程と現状・課題について

日本の民主的発展にとってきわめて重要な、近代以来の歴史的課題である部落問題は基本的に解決を展望できる段階に到達した。しかし、解決過程の到達点や部落問題の現状が、日本社会で十分認識される状況になっているわけではない。解決を展望できる段階に至った歴史的経験を深く解明するとともに、解決過程の到達点を無視した事態や動向にも十分留意して、歴史的経験を国民が共有できるように、研究体制の強化とともに研究成果の普及に努める必要がある。
2022年は「全国水平社創立100周年」にあたることから、部落問題に関する各種の取り組みや報道がなされてきた。報道においては、インターネット上の「部落」情報などを理由に「部落差別は根強く存在する」ことを強調して、「部落差別の解消の推進に関する法律」(「部落差別解消推進法」)のいっそうの具体化を促すものが目立っている。また、部落問題を被差別マイノリティの問題とする論調がきわめて多いことにも注目しなければならない。全体として、解決過程の到達点とそれをもたらした客観的条件の変化、広範な市民の努力に目を向けず、最終的解決への展望を与えないものである。国と地方自治体の「人権意識調査」や学校教育における部落問題学習の強化の動きとも深くかかわっていると考えられる。
このような状況のなかで、和歌山県立図書館における部落問題関係図書の閲覧制限問題が明らかになった。同館の措置は、言論・表現の自由、学問・思想の自由を侵害し、部落問題の解決の前進を阻害する最近の動向をいっそう助長する措置といわなければならない。
解決過程のいっそうの進展を阻害するさまざまな事態、
動向について、今日の人権と民主主義をめぐる状況と運動を考慮しつつ、検討することが重要な課題となっている。

 三 部落問題研究所の当面する課題

研究所は、「部落差別解消推進法」後の解決過程の到達点を無視した事態や動向に留意しつつ、研究所の財政危機克服の課題と一体のものとして、今日的に要請されている社会的責任を果たすために研究課題と事業計画を具体化し、諸活動を進める必要がある。
第一に、研究所は、これまで部落問題をはじめとする人権、地域、これを包含する社会の諸問題について、理論的実証的研究を行ない、成果の普及に努めてきたが、日本社会の民主主義的発展に寄与するため、いっそう学際的研究を重視しつつ、引き続きそれらの諸課題の研究と成果の普及に取り組む必要がある。
第二に、部落問題の解決過程の到達点に立って、現実の到達点と研究の到達点を明らかにし、研究成果の普及にいっそう努力するとともに、日本社会における部落問題研究の意義を積極的に明らかにする必要があり、そのためにも学際的交流を促進する必要がある。
第三に、それらの活動と並行して、国民的文化遺産ともいえる研究所所蔵の図書・資料の保存・活用のため、蔵書目録を作成・公開するなど一層の整備を図る。また、ZOOM利用のオンライン研究会開催などの体制を強化するため、その条件整備に取り組む。