(『会報』2020年10月1日No.261より)

1923年(大正12年)に起きた関東大震災から97年、今年も東京都墨田区の横綱町公園で「朝鮮人が大挙して日本人を襲撃している」といったデマによって虐殺された朝鮮人の犠牲者を追悼する市民団体の式典が開かれた。

1973年(昭和48年)から40年以上営まれてきた追悼式典である。朝鮮人犠牲者を追悼し、虐殺の歴史を知ることは不幸な歴史をくり返さず、民族差別をなくし、人権を尊重し善隣友好と平和の礎になることを願って追悼碑が建立され、歴代の都知事は追悼の辞を寄せて、碑の前で読み上げられ紹介されてきた。
しかし昨年9月、会場の公園を管理する東京都は、今年の追悼式の申請(公園の占有許可)を受理しないとし、追悼式典実行委員会と朝鮮人虐殺を否定する保守系団体の両方に「公園の管理上支障となる行為は行わない」とする誓約書の提出を要請した。これに対し実行委員会はヘイトスピーチをくり返す加害者と、その相手の被害者を同列に規制する都の対応は誤っているし、「本来自由、自主である集会運営を萎縮させる」ものであると誓約書の撤回を求めた。著名人120人を超える賛同とネット署名も3万人を超えたため、東京都は今年7月に誓約書の撤回に応じた。

一方、朝鮮人虐殺を否定する保守系団体が2017年から追悼式典と同じ日に、20メートルと離れていない場所で「真実の慰霊祭」と称する集会を開き、朝鮮人虐殺を否定するばかりか、逆に朝鮮人が略奪や暴行をくり返して日本人を虐殺したなどと主張し、「不逞鮮人」という扇動的、侮蔑的表現を使用したため、東京都は、今年8月に都人権尊重条例に基づき、これを「不当な差別扇動」と認定した。しかし、これはヘイトスピーチと認めたに過ぎないもので、団体の行動を禁止するものではなかった。
そして小池東京都知事は、今年も9月1日の式典に「追悼文」を出さなかった。小池都知事は追悼の辞を出さない理由として、「毎年9月1日に東京都慰霊堂で行われる大法要で全ての方々への追悼の辞を述べているので、個別式典への追悼は差し控える」と釈明している。

小池東京都知事は都議会で、関東大震災における朝鮮人虐殺への認識を尋ねられた時には、「この件は様々な内容が史実として書かれている」と曖昧な回答をしている。「様々な歴史認識がある」というのは、歴史修正主義者の常套句である。いま問われているのは史実に向き合ってこなかった小池都知事の姿勢である。

横綱町公園の碑には「不幸な歴史をくりかえさず、民族差別を無くし」とある。朝鮮人虐殺の史実を伝える一般社団法人「ほうせんか」理事の在日韓国人2世の槙民子さんは、「国や都のリーダーには何度でも国籍や差別を乗り超えて助け合わないといけないというメッセージを発して欲しい」と語る(東京新聞2020年8月27日より)。
同じ過ちをくり返さないために、歴史の事実から目を背けてはならない。 ( 梶野 理 )