2020年度臨時総会が、2021年4月25日(日)に、部落問題研究所(WEB会議)で開催された。
 第1号議案「2021年度事業計画」は梅田修理事が提案した。第2号議案「2021年度資金調達及び設備投資の見込みについて」及び第3号議案「2021年度収支予算」は梅本哲世理事が提案した。その後審議し、議案ごとに可決した。
 第1号議案のうち、「2021年度研究活動の基本方針」は次の通りである。

2021年度研究活動の基本方針

公益社団法人部落問題研究所(以下、部落問題研究所)は、「定款」第3条の規定するところに従い、日本社会の民主主義的発展に寄与することをめざし、内外情勢の動向を念頭におきつつ、解決段階にある部落問題を含め、日本社会が当面している人権と民主主義、人間発達に関する諸問題について調査研究し、その成果を社会に普及する事業を行わなければならない。
そのため、部落問題解決過程の到達点を踏まえ、当面の研究方針を立てるとともに、研究所として中長期的研究課題を明確化する必要がある。

 一 内外情勢の特徴と課題

研究活動の基本方針を立てるために、人権と民主主義にかかわる内外情勢の特徴と現代社会が直面する課題を的確にとらえる必要がある。
新型コロナ・パンデミックは、現代世界の矛盾と課題を浮き彫りにした。コロナ危機は、世界と日本で人々の生存・生活を脅かし、地域や社会に深刻な被害をもたらし、人権と民主主義が侵害される新たな事態が起こった。そのなかで、「社会」の脆弱化や格差・貧困の拡大をもたらした新自由主義の破綻とともに、国際協力に背を向ける自国第一主義・覇権主義の否定的役割がいっそう明らかになった。
アメリカでは、極端な自国第一主義と社会の分断を煽ったトランプ政権からバイデン政権への交代が実現した。アメリカ社会の貧富の格差、構造的人種差別の深刻さとともに、黒人や女性、貧困層などの社会運動の高まり、社会の分断克服のための運動の広がりが注目される。他方、東アジアでは米中対立の激化、日韓対立、香港やウィグルにおける人権抑圧など地域情勢は不透明さを増大させている。そうした情勢のなかで、2021年1月に核兵器禁止条約が発効した。唯一の戦争被爆国日本政府の態度が厳しく問われている。
日本では、コロナ対策で後手に回って国民の批判を招いた安倍晋三政権に替わり、2020年9月、安倍政権の基本政策継承をうたう菅義偉政権が成立した。菅政権は成立直後に、日本学術会議が推薦した会員候補のうち6名の任命を拒否し、説明責任も果たさないため、科学者や市民の激しい抗議、批判を招くに至った。しかし菅政権は、逆に、学術会議に設置形態の見直しを迫るなど、学問の自由と思想・表現の自由は大きな危機に直面している。安倍・菅政権のもとで、「コロナ危機」によって医療関係者や福祉関係者、とりわけ非正規労働者・在日外国人・女性などの社会的弱者が大きな打撃を受けるいっぽうで、「惨事便乗型政治」ともいわれるように一部企業の利益がはかられ、国民の不満、批判が強まっている。
そのなかで、コロナ危機を体験して新自由主義からの転換の必要という認識が広がり、福祉・労働・教育など多くの分野で「コロナ以後」へのさまざまな立場からの模索が始まっている。とくに「ジェンダー平等後進国」の日本で、ジェンダー平等をめざす活動がかつてない広がりをみせていることが注目される。森喜朗東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の女性蔑視発言は、日本社会の女性差別の構造的歪みが露呈したものとして内外から批判の声が上がった。ジェンダー平等の問題は、日本社会の人権と民主主義の内容に深くかかわる焦眉の問題となっているといえよう。
現在、日本社会には改憲問題、沖縄の辺野古新基地建設問題、教育の統制、マスメディア統制、公文書の恣意的管理・廃棄・改竄など、民主主義と平和の基盤を破壊する多くの問題があり、地球温暖化の問題にも直面している。グローバルなスケールと地域特有の歴史的社会的枠組みを踏まえて解決しなければならない問題も多く見られる。
以上のような情勢と課題を念頭に置いて、部落問題研究所の研究課題と社会的役割を明確にしなければならない。

 二 部落問題の解決過程と新たな  課題の明確化

近代日本の民主主義的発展にとってきわめて重要な歴史的課題であった部落問題は基本的に解決段階に到達した。しかし、部落問題解決の到達点と現状が社会一般に十分認識されていない状況があり、その理由の解明自体が重要な課題である。戦後、とくに高度成長期の社会全体の民主主義意識成長を視野に入れた解決過程研究の深化が必要である。
新自由主義段階の地域や社会の分断・分裂・非和解・非寛容とその克服の問題がますます重要になり、それを克服しうる日本社会の民主主義的成熟の在り方の解明が課題である。部落問題が「解決過程」にあるとの認識が広範な社会的認識にはなっていないという問題を、地域の今日的人権状況との関連を視野に入れて解明する必要がある。
そのために世界史的視野に立って部落問題解決過程の歴史的条件の発展と解決の具体的在り様を解明し、人文社会諸科学における部落問題とその解決に関する研究の積極的意義を明確化する必要がある。

 三 部落問題研究所の当面する課題

部落問題研究所は、現在財政上の大きな困難を抱えてはいるが、「部落差別の解消の推進に関する法律」(「部落差別解消推進法」)制定後の「解決過程」の到達点を無視した事態や動向にも留意し、今日的に要請されている社会的責任を果たすために研究課題と事業計画を具体化し、財政危機克服の課題と一体で諸活動を進める必要がある。
第一に、部落問題研究所は、これまで人権、地域、これを包含する社会の諸問題及びその政治的諸条件について理論的実証的研究を行なうことを課題としてきたが、日本社会の民主主義的発展に寄与するため、いっそう学際的研究を重視しつつ、引き続きそれらの諸課題の研究に取り組む必要がある。
第二に、2022年が「水平社創立100年」であることも考慮し、部落問題解決過程の到達点に立って、現実の到達点と研究の到達点を明らかにするとともに、日本社会における部落問題研究の意味を積極的に明らかにする必要があり、そのためにも学際的交流を促進する必要がある。
第三に、それらの活動と並行して、国民的文化遺産ともいえる部落問題研究所所蔵の図書・資料の保存・活用のため、2021年度中に蔵書目録を作成するなど一層の整備を図る。また、「コロナ禍」の下でZOOM利用のオンライン研究会開催などの対応が必要であり、積極的に条件整備に取り組む