「坂口安吾作『火』の部落問題記述を読む」
2020年月2月16日 於:部落問題研究所
二月一六日(日)の例会は、「坂口安吾作『火』の部落問題記述を読む」をテーマに、報告は秦重雄氏。
「部落問題研究総文献目録(四)」(『部落』一九五六年一一月号)により『火』が部落問題を扱った作品(初出『群像』一九四九年一一月一日発行、〈連載第1回〉第一章 一九二八―三二年 その二 法海の狂戀と片市の最後の闘争。単行本『火 第一部』として一九五〇年五月、大日本雄弁会講談社刊)であることをふまえ、『部落』一九四九年~五六年に目を通したが、『火』について言及された論文、記事等をみつけることはできなかった。戦後一〇年間位の部落問題文芸を概観し、『火』を位置づけ、一九四九年『部落問題研究』(一九五一年から『部落』)が創刊された年に発表されたにもかかわらず、安吾は当時ブームになっていた『破戒』について一切言及していない、また時代設定からいって日中戦争の影響が全く書かれていない等を指摘した。政界、宗教界の野心家・俗物を描こうとした意欲は分かるが、最終的に何を描こうとしたのか掴めなかった。部落問題記述については『群像』の五八頁~六〇頁にあり、京都を舞台にした作品なので京都在住時の衝撃的な体験をどうしても書き込みたかったのではないか。敗戦直後のものとして運動体に忖度しない突き抜けたものがあると述べた。また、ちくま文庫全集6(一九九一年)の川元祥一の「解説」の初歩的事実の間違い等いい加減さを指摘した。
討議では、『破戒』ブームの中での坂口安吾の反応としておもしろく感じた。歴史小説と言いながらどちらかといえば風俗小説、部落問題記述も一見考察した書きぶりだが―。人物の個性が描き分けられていない。「その一」と通して読むとかなり印象が違う。戦争に突入していった時代、政治家達は何をしていたのか、という安吾の怒りが感じられる。類型的な描き方は残念だが、上流、富裕階層との対比で自由奔放な人々を置いたのではないか、等の意見が出された。
(木全 久子)