2019年月7月14日 於:部落問題研究所

 七月一四日(日)の例会は、前回につづき細井和喜蔵作『工場』をとりあげ、秦重雄氏が報告した。
 著者がこの作品で訴えたかったのは、「自覚した労働者」の眼から見た、奴隷状態の工場労働者達の無自覚な悲惨な現状。環境に支配され奴隷のように働いてきた主人公・江冶がそれに気づき、「高遠な理想を抱き、主義を持って第二の自分が新しい旅を行く目標をしっかりと定めた。」と第一篇を書き始めているように、目覚めた眼があったからこそ志高く物語を展開できたのだ、今の我々に衝撃的な非人道的、非人間的な場面は殆ど事実そのままであっただろう。意識的に事実を集め描ききった著者に敬意を払うと述べた。
 討議では、『女工哀史』を小説化することにより、人権侵害にも気づかない仲間達、読者にもその仕組みがよく分かるように、知り得た事実をリアルに描いている。形は変わってきているが、全生活を支配されている点で今の労働者の実態と殆ど違わない。その中で、江冶だけがこのように人権意識を獲得できたのはなぜなのか。江冶の生き方を理解し支えようとしている女性の描き方は清潔感があり、新しい女工像と言える。英雄主義の一人の若者とそれに敬意をはらう美女という構図は、島田清次郎の『地上』から借りてきたものと思うとの指摘もあった。

(木全)