2019年月5月19日 於:部落問題研究所

 五月一九日(日)の例会では、細井和喜蔵作『奴隷』を採り上げた。一九二五年改造社から出版された『女工哀史』はよく知られているが、その小説版が『奴隷』『工場』の二冊となった。報告者は秦重雄氏。
 舞台となっている京都府の丹後・加悦は「かなり昔から半農の機業地」で、その設定が一般的な農民文学とは異なる点だとし、前半の第一篇、二篇は、著者の分身でもある主人公の江治が一五歳で大阪に出るまで。曾祖母、祖母と暮らす江治一家が、地主であり新興の地方企業家である機屋の「駒忠」に過酷に虐げられる様をリアルに描いている。また説明はないが、貧困に起因する祖母の残忍性も現実の厳しさの反映である。後半の第三、四篇は大阪・伝法の大紡織工場での、まさに「奴隷」的な労働現場が描出され、いずれも著者の体験に基づいているだけに生々しい。加悦でも伝法でも、彼の味方、真の理解者は二,三の少女を除いてなかった。
 討議では、加悦の古い農村のしがらみと新興産業の新しい苦役とを絡ませて書いている。搾取の構造がよく分かる。ブラック企業の跋扈する現在こそ、多くの読者との出会いを期待したい。「駒忠」に悪役を集中したのは、かえってリアリティを損なっている、通俗小説に学んだ欠点は、不要と思われる性的描写にも表れているのではないか等、出された。
 次回は『工場』を採り上げ、秋の研究者集会分科会ではこの二冊を中心に、との予定。

(木全)