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57回部落問題研究者全国集会参加記
 2019年10月26日・27 於:同志社女子大学今出川キャンパス

 10月26日・27日の両日、第57回部落問題研究者全国集会を同志社女子大学(京都市上京区)で開催した。
 26日の全体会では、開会にあたり、尾川理事長が挨拶、つづいて、「21世紀の天皇制度を歴史学的に如何にとらえるのか?」のテーマで宮地正人氏(東京大学名誉教授)が報告した。これを受けて、質疑、意見交換が行なわれた。
 27日は、分科会を開き、報告・討論が行なわれた。@歴史T〈テーマ・行き倒れからみる近世社会〉、A歴史U〈テーマ・近代大阪における方面委員制度の成立と社会事業の展開〉、B現状分析・理論〈テーマ・地域における人権と部落問題を考える〉、C教育〈テーマ・道徳教育と人権教育〉、D思想・文化〈テーマ・細井和喜蔵作『奴隷』『工場』を読む〉
 これらについて、参加記を寄せてもらった。

※なお、『人権と部落問題』2020年2月号に概要報告が掲載されます。

※詳細報告と討議内容の詳細は紀要『部落問題研究』233号(2020年4月発行予定)に掲載されます。


全体会報告者
宮地正人氏
(東京大学名誉教授)


理事長挨拶理事長挨拶


 
 

●参加記

全体集会    小村和義(京都市職員連合部落問題学習協議会)

分科会 第2分科会・歴史 U 梅本哲世(部落問題研究所理事)

現状分析・理論分科会  成瀬 公策(日本近代史研究者)

現状分析・理論分科会  村上 保(兵庫人権問題研究所


全体集会−参加記
   小村和義(京都市職員連合部落問題学習協議会)

 しんぶん赤旗が「テレビは思考停止」と報じた即位礼正殿の儀を頂点とする天皇代替わりフィーバーに辟易している者(ちなみに私は「即位礼の日」は宇治・笠取でBBQと芋掘りを楽しみました。)にとっては「21世紀の天皇制度を歴史学的に如何にとらえるのか?」は誠に時宜を得た、とても魅力あるテーマ。別の天皇代替わりに関する集会である研究者が述べた「右翼も左翼も天皇の個性に引きずられすぎている」という言葉が大変気になっていた私は、その歴史学的解明に期待して全体会に参加しました。
 宮地氏の報告は、十分に練り上げられた原稿を読み上げる形で近世、近代へと進むのですが、正直言って難しすぎて(と言うより淡々と進み過ぎて)、しかもレジメにはなじみのない用語が並ぶばかりで、「これはアマチュア向けではないな」と思っていたのですが、後半になると俄然面白い。
 明治維新によって絶対的天皇制が出現したわけではなく、第1次世界大戦による世界史の大きな転換の中で形成されていったこと、それを国民に受け入れさせるために教育勅語、軍人勅諭をはじめ教育が重視されたと解き、教育史の研究をいっそう深めようと提起されました。また、1970年代以降の東アジアの国際環境の激変の中で天皇制度を考察すべきと強調されました。中国が世界の舞台へ登場した72年、ベトナム戦争が終結した75年以降、東アジア情勢が転換し、慰安婦自身が声を上げ、村山談話へと続く70年代から90年代にかけて、天皇自身がそうした情勢を意識せざるを得なくなったとの指摘は、天皇制は一路反動化に向けて進むものとの認識の単純さを思い知らされました。
 「今後、天皇制度を安定的に存続させるためには」という前提付きですが「ゾンビ集団である安倍首相や日本会議の主張を受け入れないこと」というのはそのとおりだと思いますが、やはり「天皇制は廃止すべき」と主張する方がすっきりするというのは私だけではないでしょう。

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第2分科会・歴史 U 「近代大阪における方面委員制度の成立と社会事業の展開」に参加して 
  梅本哲世(部落問題研究所理事)

 歴史Uの分科会の報告者は飯田直樹氏、コメントは高岡裕之氏でした。
 飯田報告は、これまでの大阪府方面委員制度研究の問題点を、「大阪府の福祉の全体構造と、(中略)その一要素として同制度を把握するという視点が弱い」と指摘した上で、大阪の福祉の全体構造の基本矛盾を「調査主体(府・方面委員)と設立・運営主体(市町村ほか)の違い」と規定し、その矛盾がどこに顕在化するかを以下のように展開しています。
 第一に、福祉の全体構造の欠落部分である「乳児保護」について、小河滋次郎や警察がその矛盾を解決するために果たした役割と、方面活動が他の事業・施設を拡大・充実させる契機となったことを分析しています。
 第二に、全体構造の矛盾が、設立・運営主体である市町村(とくに農村部)に発現しやすいということを踏まえて、方面委員・岩田民次郎の活動の特徴(施設収容という形態)と弱点(隣保事業や方面委員のセツラーとしての役割の理解が不十分)を指摘するとともに、米騒動後の社会事業の隣保事業化(対等な立場で社会内部から改善していく方向性をもつ)という新動向を確認しています。
 第三に、隣保事業の一環としてなされる方面活動は、追善供養や葬儀などにおいては伝統的な民衆意識に規定されることが指摘されています。
 高岡氏のコメントは、飯田報告を理解する上での歴史的・理論的前提についての包括的な報告でした。特に、ドイツの「エルバーフェルドシステム」と方面委員制度の関係、都市社会政策への着目、「福祉の複合体」史、「社会都市」「社会国家」という視角、小河滋次郎の社会事業の「民衆化」論などが紹介されました。
 質疑応答では、大阪の福祉の全体構造の基本矛盾、方面活動と民衆世界の関係、都市および都市政策の変化と方面委員制度などについて、議論されました。

 飯田氏の報告は、佐賀朝氏や松下孝昭氏の大阪方面委員研究とは違った視点を提起した意欲的なもので、興味深く聞くことができました。ただ、当日に発言しましたように、「全体構造の矛盾」を飯田氏のように規定していいのか、という疑問が残りますし、この矛盾との関連で「民衆世界の伝統」をどう位置づけるかについても、もう少し展開してほしかったと思います。今後のご研究の発展を期待します。
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現状分析・理論分科会参加記
  
    成瀬 公策(日本近代史研究者) 

 これまで全国集会では、「歴史U」の分科会に参加したことしかなかったのですが、賀川豊彦という人物に関心があり、今回は「現状分析・理論」への出席することを決めました。
先ず、ハンセン病に関心を持ち続けている松本氏の報告は、精神科のソーシャルワーカーの経験から、全国的な同科の入院患者(病床)数の変化を具体的に示しながら、退院し地域社会で生活可能な患者も、入院が強いられているケースが多々見受けられるという衝撃的な問題提起でした。続いて、河野氏によって、京都市内において1950~60年代に実施された居住環境を中心とした部落調査について詳細な資料が紹介されました。理論によって現実を裁断する危険性とともに、事実に基づいて政策立案がされることの重要性が示唆されていたように思われました。隣保館で勤務経験がある身としては、たいへん興味深く聞き入りました。午後には、鳥飼氏より、映像ももちいて賀川豊彦の人物像が紹介されただけでなく、自身の若いころの人生が語られました。神戸市内の番町に移り住み、ゴム工場に雑役夫としてはたらきながら、自宅を拠点に牧師としての活動も積極的に行ったとのことです。
松本・鳥飼氏は、世代は離れているものの、困難を抱えた人の人生に寄り添うことによって、自身の活路も見出そうとする点では共通する生き方が示され、深く感銘を受けた参加者も多かったのではないでしょうか。基本的人権は人類にとって普遍的価値を有するものであり、困難な状況に置かれた人々の人権こそ実現されなければならないとする本研究所創立の根源的な精神にふれた想いがしました。
参加者からは、多様な観点から、質問や意見が出され活発で濃密な討論がされました。「部落」といっても京都市内と港の発展とともに出現した神戸市内では、成立時期も形成過程もまったく異なる旨確認された他、精神病の定義をめぐって、議論が大いに白熱したことが印象深かったです。

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第4分科会教育「道徳と人権教育」報告
    村上 保(兵庫人権問題研究所) 

 午前中は、2つの報告・問題提起、すなわち、大八木賢治氏の「中学校道徳教科書と道徳について〜歴史の主体として生きる道徳性の育成〜」、梅田修氏の「人権教育をめぐる動向と道徳教育」があった。大八木氏は、道徳教科書の教材を分析して、「道徳の教科化」の狙いが、教材・設問も既定枠内の「考え、議論」(文科省「考え、議論する道徳」)で、「自己評価」により22項目の「徳目」を教え込むことと指摘した。戦前・戦中の終身科(「軍人勅諭」)と教育勅語(「天皇制教育」)を城丸章夫氏の諸論考で分析し、徳目主義を克服する「民主的な道徳」、つまり、「多面的・多角的(学習指導要領)」ではなく、科学的な探求の視点から「事実に基づいて考え」、何が真実かを今日の科学や文化の到達点を踏まえ、子ども自身が自主的に自身の価値形成をめざすものと提起した。梅田氏は、国よる「人権教育(・啓発)」政策が提起された経過を丹念に検討し、人権教育の目標は、「『(基本的)人権の尊重の精神」』が正しく身につく」(人権教育の指導方法等に関する調査研究会議第三次とりまとめでは、「自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること」「具体的な態度や行動に現れるとともに、人権が尊重される社会づくりに向けた行動につながるようにすること」)である論じた。国は、「第三次とりまとめ」を浸透させようとしたが、「資質・能力」にある「人権感覚」形成をめぐり理論的混迷に陥り、道徳教育と人権教育の区別が不明になった。「解放教育」の人権教育論も同様であるとした。
 午後は、質問・討議になったので、まず、私が憲法の人権概念を歪める「大人の道徳」版の「(兵庫県)尼崎市人権文化のいきづくまちづくり条例」(骨子素案)の批判を行った。討議では、「憲法の人権概念は対公的権力であり、国の諮問機関の学者や解放教育論者の社会認識の欠如」、「教育における子ども参加のあり方と実践」等多様な意見がでた。

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